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田沼意次ゆかりの地・牧之原で、相良城の遺構を巡る旅

静岡県牧之原市には、田沼意次が遠州相良(えんしゅうさがら)藩主を務めた江戸時代中期、壮麗な相良城がありました。意次の失脚とともに破却されてしまいましたが、城址や城下町には、意次の功績を今に伝える遺構や、相良城や田沼家ゆかりの品々を保存する寺院が点在しています。
意次にちなんだ蕎麦や最中など、散策のお供にぴったりなグルメにも出合えます。今なお、地元の人に愛される意次の面影をめぐってみましょう。
更新日: 2024年12月13日

江戸幕府の財政再建に邁進した田沼意次

田沼家の家紋「七曜紋」
田沼意次は格の低い家柄の出身でありながら、第9代将軍家重の側近である御側御用取次(おそばごようとりつぎ)として引き立てられ、1758年には、相良藩主となり1万石の大名となりました。10代将軍家治にも重用され、1767年に御側用人に昇格、さらに1772年には幕府最高職の老中にまで登りつめました。
江戸時代中期の1758年から約30年間は、「田沼時代」と呼ばれています。意次は幕府の財政立て直しを図り、商業の振興に力を入れました。また、関東と関西で異なっていた貨幣の統一や長崎貿易の拡充、印旛沼の新田開発や蝦夷地の調査なども行いました。意次の政策によって庶民の生活にもゆとりが生まれると、浮世絵や歌舞伎などの文化も花開き、多くの戯作や浮世絵などの出版も盛んになりました。蔦屋重三郎など、多くの版元が増えたのもこの頃です。一方で、領地の相良藩には壮麗な相良城が築かれました。
相良城の二の丸を囲む土塁の一部に残る「二の丸のマツ」に当時が偲ばれます(相良小学校グラウンド)
その後、浅間山の噴火や異常気象がもたらした冷害による天明の飢饉などで、米の価格が高騰。治安も悪化し、人々の間に不安や不満が高まると、意次の立場は危うくなります。そして、10代将軍家治の死去によって、田沼派の力は急速に弱まり、意次は失脚。家督を継いだ孫の意明は相良藩5万7千石から陸奥下村藩1万石に転封となり、相良城も取り壊されてしまい、失意のうちに意次はその生涯を閉じました。

これまで、賄賂政治というイメージがつきまとってきた意次でしたが、近年、その評価が見直されています。意次が実際に領地の相良に来たのは1回だけですが、城下町が整備され、産業を振興しました。東海道藤枝宿と相良城下を結ぶ約28kmの街道・田沼街道や、相良湊の整備により、相良藩には物資が集結しただけでなく、東西からさまざまな文化ももたらされ、相良の地は大いに発展しました。今も残る相良城の貴重な遺構のひとつに「仙台河岸」があります。海と城下をつなぐ外堀に位置する船着き場だったと考えられています。仙台藩主の伊達重村が石を寄進したと伝えられています。
江戸時代から残る貴重な石垣「仙台河岸」の一部

江戸時代から残る貴重な石垣「仙台河岸」の一部
意次が整備した街道「田沼街道」の起点

意次が整備した街道「田沼街道」の起点

田沼家ゆかりの品々を保存、展示している「牧之原市史料館」

城郭を模した建物の牧之原市資料館
相良城本丸跡に建つ牧之原市史料館。田沼家の家紋「七曜紋」が入ったゆかりの道具類や関連資料を収蔵、展示しています。田沼意次の生涯や実績をたどるのなら、まずは牧之原市史料館に足を運んでみましょう。入口で出迎えるのは、大江八幡宮の例祭で使われた、意次が寄進した神輿です。田沼意次の時代から続く御船(おふね)神事は、国の重要無形民俗文化財に指定されています。牧之原市史料館では、2025年1月26日~2026年1月12日まで「田沼意次の新時代展」及び「大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』展・静岡まきのはら」を開催します。
田沼家の刀を入れていた、漆塗りの刀だんす

田沼家の刀を入れていた、漆塗りの刀だんす
田沼家の家紋、七曜紋入りの大杯

田沼家の家紋、七曜紋入りの大杯
城下町の地図を見ながら、相良城の遺構やゆかりの寺院をめぐってみましょう
牧之原市史料館にある、相良城下を紹介するパンフレットには、現在の地図と合わせて、相良城があった頃の地図も掲載されています。昔の道や堀の位置を比較しながら歩くのも楽しいですよ。

【牧之原市史料館】
住  所 〒421-0592 静岡県牧之原市相良275-2
電  話 0548-53-2625
営業時間 9:00〜16:00
定  休 月曜、祝日の翌日、年末年始
料  金 大人220円、18歳未満110円、団体(30人以上)2割引
 駐 車 場 あり

田沼意次寄進の本堂が残る「平田寺(へいでんじ)」

平田寺は1283年の開創。臨済宗の禅寺
鎌倉時代に開創された平田寺は、今川氏、武田氏、徳川氏など、多くの戦国武将から崇拝されました。田沼意次は、江戸にある田沼家の菩提寺とは別に、「香華寺(こうげじ)」として平田寺に位牌を安置し、1786年に本堂を再建するなど領地の相良でも田沼家の御霊を供養できるようにしました。本堂の脇には田沼家専用の玄関が設けられ、奥の開山堂には、意次や子の意知など歴代の位牌が祀られています。意次の命日7月24日には位牌を納めている逗子の扉が開かれます。2022年には、将棋の藤井聡太七冠が王位防衛を決めた、第63期王位戦第5局が行われたことでも有名です。2025年3月22日、23日の2日間、通常非公開の秘仏「聖観音」と国宝「聖武天皇勅書」を特別公開します。
唐破風づくりで風格のある、田沼家専用の玄関

唐破風づくりで風格のある、田沼家専用の玄関
田沼意次の位牌。右隣は意次の父、意行(おきゆき)の位牌 ※特別に許可を得て逗子の扉を開けて撮影しています

田沼意次の位牌。右隣は意次の父、意行(おきゆき)の位牌 ※特別に許可を得て逗子の扉を開けて撮影しています
禅寺らしい、質素ながら厳かな平田寺の本堂内部
【平田寺】
住  所 〒421-0512 静岡県牧之原市大江459
電  話 0548-52-0492
営業時間 境内自由
※2025年3月22日、23日の秘仏・国宝公開は10:00~16:00、拝観料1,000円となります。
 駐 車 場 あり

相良城の貴重な遺構、大書院の杉戸を所蔵する「般若寺」

相良城御殿大書院にあった杉戸を保存する般若寺
城下町からは少し離れた般若寺。江戸時代末期に建てられた本堂では、相良城の遺構のひとつ、御殿大書院の杉戸を見ることができます。
「竹林と虎」

「竹林と虎」
「牡丹と鳳凰」

「牡丹と鳳凰」
本堂に向かって右は「竹林に虎」、左は「牡丹に鳳凰」。徳川10代将軍家治の御用絵師、狩野典信(みちのぶ)が描いたと言われています。
相良城が破却された後、その遺物の多くは散逸してしまいましたが、杉戸は田沼家を慕う人々によって難を逃れ、般若寺に寄進されたと考えられています。通常、襖は2枚や4枚で1セットになっていますが、この杉戸は3枚ずつしかなく、絵の繋がりから見ても、もう1枚ずつあったものではないかと推察されます。
杉戸の裏には獅子も描かれています

杉戸の裏には獅子も描かれています
意次時代につくられた陣太鼓。胴の部分には田沼家家紋の「七曜紋」が残っています

意次時代につくられた陣太鼓。胴の部分には田沼家家紋の「七曜紋」が残っています

般若寺には、田沼意次が相良城築城時に江戸の職人につくらせた陣太鼓も保存されています。その音の大きさと美しさから、相良沖に現れた海賊が、陣太鼓の音を大砲の音と勘違いして逃げていったという逸話があります。

大きな音がするのは中に金塊が入っているからと噂があり、大正初期、この陣太鼓は盗難に遭ってしまいます。盗賊は中を確かめるため、太鼓の皮を切り裂いてしまいました。しかし、そのおかげで胴の内側に記された銘が明らかとなり、明和4年の作とされたことで、間違いなく意次の時代のものと判明しました。

【般若寺】

住  所 〒421-0526 静岡県牧之原市大沢695-1
電  話 0548-52-1602
営業時間 境内自由
 駐 車 場 あり

相良城の材木を使って建てられた本堂が残る「大澤寺(だいたくじ)」

相良城の木材を再利用して建てられた大澤寺の本堂
かつて、高天神城の南東にあり本楽寺と称していた大澤寺。第二次高天神の戦いの際に消失し、徳川家康から相良の地を与えられ移転、大澤寺と改称しました。その後も火災により2度の消失を経て、現在の地に再建されたのは、相良城が破却されてから5年後の1793年のことでした。本堂の床下の基礎には、ほぞ穴が残る相良城の木材が使われています。木材以外にも本堂の礎石、寺の周囲の石垣、門柱なども再利用されて今に残ります。また、本堂の内陣と外陣の間には柵が設けられていますが、これも相良城の旗指物に使う竹竿を使っているそうです。
ほぞ穴が残る基礎材は、床下にもぐって見学できます

ほぞ穴が残る基礎材は、床下にもぐって見学できます
本堂の内部。左右にある金碧障壁画(ふすま絵)は、江戸後期に遠州で活躍した丸尾月嶂の作

本堂の内部。左右にある金碧障壁画(ふすま絵)は、江戸後期に遠州で活躍した丸尾月嶂の作
地に金箔を貼った豪華な金碧障壁画「牡丹孔雀図」

地に金箔を貼った豪華な金碧障壁画「牡丹孔雀図」
田沼意次の娘が寄進したと伝わる太鼓。相良城の時太鼓だったと考えられています

田沼意次の娘が寄進したと伝わる太鼓。相良城の時太鼓だったと考えられています
【大澤寺】
住  所 〒421-0523 静岡県牧之原市波津808-6
電  話 0548-52-0657
営業時間 境内自由
 駐 車 場 あり

田沼家が雨乞いをした祈願所「浄心寺」

1624年開創の浄心寺。本堂は2016年に改修。260年ぶりの一大事業でした
浄心寺は、江戸時代初期、京都・伏見出身で、相良湊で回船業を営んでいた西尾源兵衛が、先祖の菩提を弔うために日蓮宗に帰依して開創しました。のちに、同じく日蓮宗を信仰していた田沼家の祈願所として、雨乞祈祷などで厚く崇敬されました。寺宝に田沼家が寄進した御曼荼羅があり、通常非公開ですが、2025年1月26日から牧之原市史料館で開催の「田沼意次新時代展」で公開されます。
日照りの年だった天保10(1839)年に、意次のひ孫・意尊(おきたか)が寄進した自筆の雨乞曼荼羅

日照りの年だった天保10(1839)年に、意次のひ孫・意尊(おきたか)が寄進した自筆の雨乞曼荼羅
文政7(1824)年、意次の四男・意正が寄進した「蒙古退治の図」

文政7(1824)年、意次の四男・意正が寄進した「蒙古退治の図」
そこだけ時が止まったかのように佇む山門

そこだけ時が止まったかのように佇む山門
山門の欄間。龍の彫刻はケヤキの1本彫り。立体的で迫力があります

山門の欄間。龍の彫刻はケヤキの1本彫り。立体的で迫力があります
平賀源内の墓は。真相はいかに!?

平賀源内の墓は。真相はいかに!?
山門の欄間に彫られた龍の彫刻は、地元出身の画家・寺田洞仙の作と伝えられる、牧之原市の指定文化財です。また、江戸時代中期の発明家、平賀源内は誤って人を殺してしまい投獄され、獄中死したと伝わりますが、田沼意次が相良に匿い生き延びたという説もあります。浄心寺の墓地には、平賀源内のものと伝わる墓があります。

【浄心寺】
住  所 〒421-0521 静岡県牧之原市福岡62
電  話 0548-52-4415
営業時間 境内自由
 駐 車 場 あり

相良の町で四代に渡りのれんを守る老舗蕎麦店「壽亭(ことぶきてい)」

牧之原市史料館からも近く、城下町散策途中のランチにおすすめ
明治18年創業の壽亭。細切りに揃えられた、つるっとしたのど越しの更科系の蕎麦が人気です。数種類のかつお節を使っただしと、代々伝わる少し甘めのかえしでつくるつゆが程よく絡み、蕎麦の繊細な味に奥行きを添えます。
田沼意次にちなんだ天ざる蕎麦の「田沼蕎麦」は、先代が考案。輪島塗に田沼家の家紋「七曜紋」を金であしらった器で提供される、田沼家の子孫も公認の看板メニューです。自慢の蕎麦とサクサクの天ぷらは相性が抜群。地元民はもとより、遠方からも蕎麦好きのファンが足を運びます。
「田沼蕎麦」1450円。打ち立ての蕎麦はしゃっきり、つるつる

「田沼蕎麦」1450円。打ち立ての蕎麦はしゃっきり、つるつる
焼津産の鰹節をたっぷりのせた「梅おかかおろし」1250円。さっぱりとした味が食欲をそそります

焼津産の鰹節をたっぷりのせた「梅おかかおろし」1250円。さっぱりとした味が食欲をそそります
店内は純和風の落ち着いた雰囲気。座敷席もあります

店内は純和風の落ち着いた雰囲気。座敷席もあります
【壽亭】
住  所 〒421-0592  静岡県牧之原市相良350
電  話 0548-52-0241
営業時間 11:00〜14:00、17:00〜20:00
定  休 水曜
 駐 車 場 あり

名物は陣太鼓最中。伝統の味を受け継ぐ「扇子家(おおぎや)」

田沼意次ゆかりの陣太鼓にちなんでつくられた「陣太鼓最中」
初代が創業した大正6(1917)年からつくり続けている「陣太鼓最中」は、扇子家の代表銘菓。陣太鼓を模した最中の皮は、餅を型に挟んで焼き上げ、サクッとした食感とほのかな甘みを感じる香ばしさが特徴。中にぎっしり詰まった大納言小豆の粒あんも、季節や天候によって炊き方を微調整するこだわりで、初代の味を受け継いでいます。
「陣太鼓最中」160円。香ばしい皮とさらりとした甘みの粒あんが、絶妙なバランスで美味しさを引き立てあいます

「陣太鼓最中」160円。香ばしい皮とさらりとした甘みの粒あんが、絶妙なバランスで美味しさを引き立てあいます
「田沼茶羊羹」190円。意次が推進した金融政策の功績にちなんで金箔をトッピングしています

「田沼茶羊羹」190円。意次が推進した金融政策の功績にちなんで金箔をトッピングしています
伝統的な和菓子と独創的な洋菓子、焼き立てパンなど、商品が豊富。お客様がひっきりなしに訪れます

伝統的な和菓子と独創的な洋菓子、焼き立てパンなど、商品が豊富。お客様がひっきりなしに訪れます
【扇子家】
住  所 〒421-0521 静岡県牧之原市福岡4
電  話 0548-52-0218
営業時間 8:30~18:30
定  休 水曜
 駐 車 場 あり

まとめ

相良城の城下町は、田沼意次や田沼家の面影が残る寺院をめぐりながら、のんびり散策するのにぴったりな静かなまちです。善政を敷いた意次の功績も点在。田沼家や相良城ゆかりの品を保存している寺院や、お店の看板メニューから、相良の人たちがいかに田沼意次を慕っているかが感じられました。
牧之原市史料館では、2025年1月26日から「田沼意次の新時代展」及び「大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』展・静岡まきのはら」を開催します。近年、評価が見直されている田沼意次ゆかりの地に、ぜひ足を運んでみてください。
 

今回紹介したスポットMAP

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